株式会社ちよだ鮨
人事部部長 西山 様
人事部 宮澤 様
※肩書はインタビュー当時
▼目次
突然の介護離職をきっかけに~「辞めない」職場づくりへ
介護を経験していない人にも伝えたい~”いざ”の前に備える重要性
「関心が薄い」と予想していた従業員が前のめりに~セミナーを通じた意識の変化
いち早く導入した70歳定年制~「働き続ける」を支える環境整備
「抜けたら困る」現場からの脱却 両立をどう支えるか
70歳定年制をとっている株式会社ちよだ鮨。
数年前にあった従業員の介護離職をきっかけに「誰もがいずれ直面するかもしれない」仕事と介護の両立という課題に向き合うことを決めました。
介護経験のある人事ご担当者の実感と、現場からの声をふまえ「辞めない」「両立できると思える」環境づくりを進めておられます。
社員向けの啓発、管理職への浸透、認知症への理解促進、復職後を見据えた制度設計まで、実践的な取り組みについて伺いました。
– まず、両立支援を始めようと思われた背景についてお聞かせいただけますか。
【宮澤様】
2、3年前になるのですが、何人かの従業員が突然介護離職する、ということが起きました。驚いて詳しく聞いてみたのですが、当事者への対応が十分でなかった部分があったのではないかと感じました。利用できる制度があることや、両立して働き続ける選択肢があることを、当時は職場内に周知できていなかったのだと思います。
また、介護で休職していた社員が、介護が終わった後、精神的に落ち込んでしまったというケースもありました。 こうした出来事が「突然起きた」ことに危機感を覚え、何か打つ手はないかと考えたのが両立支援の始まりです。「働き続けてほしい」という思いが土台にあったので、両立支援に専門性を持つチェンジウェーブグループに相談しました。
– 突然退職された方がいらっしゃったのですね。
【宮澤様】
はい。介護が始まってご自身も体調を崩し、限界を超えてしまい、「もう辞めないと無理です」と退職を決断された方が続きました。
当社の正社員の平均年齢は46~47歳くらいなので、まさに介護の問題を抱えるタイミングの方が多く在籍しています。今はまだ親御さんがお元気でも、まもなく誰もが「仕事と介護の両立」に直面する時代になるという実感を持ちました。
– 両立支援に取り組むにあたって、どんな方針をお持ちでしたか?
【西山様】
私自身、家族の介護を経験しました。
介護中は色々な疑問を抱え、「本当にこれで良いのか」という思いが常に心の中にありました。自分なりにやりきったつもりでも、もっと何か良い方法があったのでは、と、介護が終わった今でもふと思うことがあります。
だからこそ、従業員の介護問題について、自分の経験だけをもとにアドバイスしてよいのか、迷う部分がありました。
しかも、介護に関係する情報は常に進化しています。私も介護に直面したとき「何をどうすればいいかわからない」と思ったので、社員がそうした迷いを少しでも解決できるように支援したいという思いがありました。
当社では時短勤務や日減勤務などの制度はすでに整えていますが、それだけでは不十分です。専門家に相談し、両立できる選択肢を持てる、ということをしっかりと伝えていきたいと考えました。
— まずは全社員に必要な土台づくりとして、弊社がセミナーを実施させていただきました。弊社がご提供するセミナーは、基本構成をベースに、企業ごとの実情に応じてカスタマイズさせていただいています。ちよだ鮨様からも、西山様のご経験を踏まえた具体的なご要望をいただきました。
【 西山様】
私が家族の介護に直面したとき、まずは介護の計画を立てました。
そのときは、介護や看護など様々な専門職の方に加えて地域の方など、様々な方が一気に我が家に集まったという印象で…正直なところ、それぞれの役割がよく分からないままに対応していた、という経験があります。
だからこそ、社員には「いざ介護が始まったときにどのように考えればよいか」「まず、誰に何を相談すればいいのか」といった、最初の道筋を明らかにして伝えたいと思いました。
また、私の父が晩年に認知症を患ったこともあり、認知症について事前に予備知識を持っているだけでも家族として精神的に違うのでは、という思いがありました。こうした自分の経験を踏まえ、認知症に関する内容も追加で盛り込んでいただきました。
【宮澤様】
数年前に介護離職をした社員も「どうすれば職場に迷惑をかけずに親の介護ができるのか」と悩み、上司に相談したと思います。けれど、上司は「仕事と介護は両立できる」と伝えられなかった。部下への配慮からの言葉だったかもしれませんが、結果としてその社員は「辞めるしかない」という選択肢しかない、と考えてしまったようでした。
上司が「両立できる」というメッセージを伝えられないと、部下は八方塞がりになって「介護を優先するからには辞めるしかない」「長期で休むしかない」ということになってしまいます。介護をする側だけでなく、相談を受ける側の知識・リテラシーも必要だと強く感じています。
特に店長職にある人は、部下も多く抱えていますし、パート社員の状況も把握する立場にあります。自分に介護経験がなくても、一定の理解は必要だと考えています。
– セミナーの反応はいかがでしたか?
【宮澤様】
セミナーは、管理職が集まる営業会議にあわせて実施しました。会議に加えてセミナーを90分実施する、と伝えたところ、一部で「えっ」という声があがりました。正直、関心が薄い社員もいたと思います。
ところが、話が進むにつれて、皆が前のめりになり、聞き入っている様子が見受けられました。セミナーを通じて、「自分にはまだ関係ない」と思っていた社員にも、介護は誰にでも起こり得ることだという実感を持ってもらえたと思います。
当事者でないとしても、部下や同僚の相談を受ける立場にいるわけですし、「自分ごと」化してもらうことに大きな意義があったと考えています。
– セミナーには、認知症に関するアクションガイドも盛り込ませていただきましたね。
【西山様】
「認知症に対する漠然とした不安を少しでも解消できれば」という思いがありました。
私の父が認知症であった際も「次はこういう症状が出てくる段階になる」と事前に知っているだけで、精神的にかなり違うと感じたからです。
ちょうどその時期、長年会社を率いてこられた会長の引退も重なり、社内では高齢化に関わる話題がより身近で現実的なものとして意識されていました。実際、社員の反応を見ても関心の高まりが伺え、伝える機会を持てたことは非常に意義があったと思いました。
【宮澤様】
店長会議でもアーカイブ配信を行ったのですが、「ちょうどタイムリーな話だった」という反応が届きました。セミナーで学んだことを活かし「まずは辞めないで」「地域包括支援センターに相談できるよ」と、メンバーやパートの方に声をかけたそうです。
このほか、アンケートでは、介護を終えた社員から「当時、こうしていればよかったと思う」という意見が寄せられ、経験者の声が今後の支援にも活かせると感じました。
職場全体として支え合う空気、両立するメンバーを受け止めていこうと言える社員が増えたことは前進だと思っています。
– 人材確保・人材定着という観点でも、両立支援を進める企業が増えていますが、様々な人事施策に跨る課題だと痛感しています。
【西山様】
当社は業界で最も早く65歳定年制度を導入しましたが、70歳定年制には時間がかかりました。制度を設けること自体は難しくありませんでしたが、「70歳まで働ける環境」を整えるには、具体的な準備と仕組みが必要だったからです。
会社としてまず取り組んだのは、健康面の支援です。人間ドックの補助制度を35歳から用意し、休暇制度や時間短縮勤務の導入、さらにキャリアの構築という面でもステータスが維持できるような仕組みを整備していきました。
【宮澤様】
制度面に加え、人の気持ちに寄り添った支援とは何か、部内でも話し合ってきました。例えば、家族の看取りのときに休みが取れるようにできないか、等です。地方に親御さんがいる社員に対する支援のあり方などはこれからの課題でもあります。
誰にでも老いは訪れますが、「会社に両立支援をしてもらえて良かった」と思ってもらえるようにしたいです。
– 一方で、組織全体ではどう成果を出していくか、という観点も必要ですね。
【宮澤様】
長く働き続けてもらうことを考えると、介護や子育てに限らず、様々なライフイベントと両立できる環境整備は欠かせません。
ただ、店舗の営業は一人が休んでも大きな影響が出るという実情があります。だからこそ、制度を「使える」ものにできるよう、支える側の仕組みを整えないといけないと思います。
例えば、当社には、男女問わず取得できる時短勤務制度がありますが、実際利用しているのは育児中の女性が中心です。
年齢的に店長を務められる中堅層の方が多いのですが、店長が時短勤務を取るとなると、現在は店長の代わりを担えるポジションがありません。
店長の業務を整理し、パート社員でも対応可能な部分を明確にするなどして、多様な働き方を支える仕組みが作れないかと考えています。パート社員の処遇改善も視野に入れつつ、社員の負担も減らし、役割を分担できるようにならないか、なども一案です。
将来的には、家の近くの店舗で(通勤時間を短くして)店長として働く、育児が落ち着いたら勤務時間を延ばして活躍するなど、状況に応じて柔軟な働き方ができる職場を目指したいです。
【西山様】
私たちが目指しているのは、「働けなくなる」のではなく、「働き続けながら課題と向き合える」会社であることです。今後、増えるであろう介護との両立に対しても、会社として支援策を整備していきます。70歳の定年まで働き続けてほしいですし、定年という考え方そのものがなくなっていく時代に備え、今後も環境整備を進めていきたいと考えています。
ー介護との両立支援は、すべての働く人にとって“いつか”訪れるかもしれない課題への備えであり、「多様な働き方を認めながら、成果を出す職場づくり」につながります。
株式会社ちよだ鮨様の取り組みは、その“いつか”を“今”から支えるという視点と、制度だけに留まらない実践によって、一歩一歩進めておられるように感じられました。
「この会社で良かった」と思える職場のヒントを頂けたように思います。
貴重なお話をありがとうございました!
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